〈bookrium=book+aquarium〉本の海を回遊するブックリウムの、本と陶芸のある生活です。


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タグ:詩とか ( 57 ) タグの人気記事

雨水次候・霞始靆(かすみはじめてたなびく)……遠くの山や景色に春霞がたなびき始める頃。

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〈詩と科学遠いようで近い。近いようで遠い。〉

平凡社STANDARD BOOKS湯川秀樹『詩と科学』より、冒頭のこの一篇は1946年39歳。

たった3頁弱の短い文章です。けれど深く、この一篇自体が詩のようです。

科学はきびしい先生、詩はやさしいお母さん。詩の世界にはどんな美しい花も、どんなおいしい果物もある。
詩と科学、近いように思われるのは、出発点が同じ、自然を見ること聞くことからはじまっているから。
しかし科学はどんどん進歩して、詩の影も形も見えない。

〈そんなら一度うしなった詩はもはや科学の世界にはもどって来ないのだろうか。〉

詩は、探しても見つかるとは限らない。けれど、ごみごみした実験室の片隅で科学者が発見したり、数式の中に目に見える花よりもずっとずっと美しい自然を見つけるかもしれない。
科学の奥底でふたたび自然の美を見出す。少数のすぐれた学者に見つけられた詩は、多くの人にわけられてゆく。

〈詩と科学とは同じ所から出発したばかりではなく、行きつく先も同じなのではなかろうか。そしてそれが遠くはなれているように思われるのは、途中の道筋だけに目をつけるからではなかろうか。どちらの道でもずっと先の方までたどって行きさえすればだんだん近よって来るのではなかろうか。そればかりではない。二つの道は時々思いがけなく交叉することさえあるのである。〉

湯川と同級生だった朝永振一郎は、湯川は百年先まで見ているといった。
この短い文章の先、遠い遠い先で、詩と科学がふたたび交叉する光景を、いつも想像します。それは光のある光景です。



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by bookrium | 2018-02-23 19:42 | 涼風本朝七十二候 | Trackback | Comments(0)

東風解凍--『柿の種』

立春初侯・東風解凍(はるかぜこおりをとく)Spring Winds Thaw the Ice……東から吹く風が厚い氷を解かし始める時季。立春を過ぎて最初に吹く強い南風が春一番。

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〈日常生活の世界と詩歌の世界の境界は、ただ一枚のガラス板で仕切られている。
 このガラスは、初めから曇っていることもある。
 生活の世界のちりによごれて曇っていることもある。
 二つの世界の間の通路としては、通例、ただ小さな狭い穴が一つ明いているだけである。
 しかし、始終ふたつの世界に出入していると、この穴がだんだん大きくなる。
 しかしまた、この穴は、しばらく出入しないでいると、自然にだんだん狭くなって来る。
 ある人は、初めからこの穴の存在を知らないか、また知っていても別にそれを捜そうともしない。
 それは、ガラスが曇っていて、反対の側が見えないためか、あるいは……あまりに忙しいために。
 穴を見つけても通れない人もある。
 それは、あまりからだが肥り過ぎているために……。
 しかし、そんな人でも、病気をしたり、貧乏したりしてやせたために、通り抜けられるようになることはある。
 まれに、きわめてまれに、天の焔を取って来てこの境界のガラス板をすっかり熔かしてしまう人がある。〉

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寺田寅彦の『柿の種』は今までも紹介しています。岩波文庫の最初に収められたこの短文は大好きな文です。以前もこのブログに載せています。
二つの世界を行き来していきたいな、と思います。それは、生活と詩であったり、陶芸と古本であったり、ブログと雑誌であったりします。
ずっと狭くなっていた穴を、広げて通り抜けられるように。
去年は続けられませんでしたが、大正9年に書かれた寅彦のこの文をきっかけに、能登の風景に涼しい風通しのいい本を集めたカテゴリ〈涼風本朝七十二候〉を始めたいと思っています。





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by bookrium | 2018-02-05 12:55 | 涼風本朝七十二候 | Trackback | Comments(0)

夏至――『六月』

夏至……太陽が天球上で夏至点に達し、北半球の昼の長さが一年で一番長く、夜が一番短くなる日。
北回帰線上の観測者から見ると 夏至の日の太陽は、正午に天頂を通過する 。

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〈海の青が薄くなると、それだけ、空の青が濃くなってゆく。
 街に青のスーツが目立ってくる。それに従って、山野の青が消えてゆくのだ。
 六月――、移動する青の一族。その隊列を横切るために、私は旅に出なければならぬ。〉
『井上靖全詩集』より
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by bookrium | 2014-06-21 00:54 | 当世本二十四節気 | Trackback | Comments(0)

〈もう一つ、五月のそよ風をゼリーにして持つて来て下さい。非常に美しくておいしく、口の中に入れると、すつととけてしまふ青い星のやうなものも食べたいのです〉

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立原道造が24歳で亡くなる1週間ほど前に、ほしいものがないか聞かれ、残した言葉。




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by bookrium | 2014-05-28 22:20 | 好きな本 | Trackback | Comments(0)

清明――『柿の種』

清明……桜や草木の花が咲き始め、万物に清朗な気が溢れて来る頃。 

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〈宇宙の秘密が知りたくなった、と思うと、いつのまにか自分の手は一塊の土くれをつかんでいた。そうして、ふたつの眼がじいっとそれを見つめていた。
 すると、土くれの分子の中から星雲が生まれ、その中から星と太陽とが生まれ、アミーバと三葉虫とアダムとイヴが生まれ、それからこの自分が生まれて来るのをまざまざと見た。
 ……そうして自分は科学者になった。
 しばらくすると、今度は、なんだか急に唄いたくなって来た。
 と思うと、知らぬ間に自分の咽喉(のど)から、ひとりでに大きな声が出て来た。
 その声が自分の耳にはいったと思うと、すぐに、自然に次の声が出て来た。
 声が声を呼び、句が句を誘うた。
 そうして、行く雲は軒ばに止まり、山と水とは音をひそめた。
 ……そうして自分は詩人になった。〉
寺田寅彦「短章 その一」


柿の種 (ワイド版岩波文庫)
寺田 寅彦
岩波書店
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by bookrium | 2014-04-05 00:03 | 当世本二十四節気 | Trackback | Comments(0)

啓蟄――『晩年』

啓蟄……大地が暖かくなり、冬の間地中にいた虫(蟄)が穴を開いて(啓いて)動き出す日。一雨降るごとに気温があがってゆき、春に近づいていきます。春雷が一際大きくなりやすい時期です。

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〈僕は君を呼びいれ
 いままで何処にゐたかを聴いたが
 きみは微笑み足を出してみせた
 足はくろずんだ杭同様
 なまめかしい様子もなかった
 僕も足を引き摺り出して見せ
 もはや人の美をもたないことを白状した
 二人は互の足を見ながら抱擁も
 何もしないふくれっつらで
 あばらやから雨あしを眺めた〉
室生犀星『晩年』より




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by bookrium | 2014-03-06 00:40 | 当世本二十四節気 | Trackback | Comments(0)

雨水――『雪』

雨水……雪溶けて雨水ぬるむ。もう雪は降りません、降るなら雨。積もった雪も溶け始めます。

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〈ラジオは、裏日本一帯の猛吹雪を報じている。陸奥湾にも、能登半島の海岸にも、東尋坊のきりぎしにも、いま、雪はしんしんと降っているのだ。細長い日本の国の半分の、大きい家にも、小さい家にも、草にも、木にも、ラッセル車にも、雪はこやみなく降っているのだ。
 こんな晩、ぼくはいつも想像する、どこかの海峡の底ふかく、真赤な花が、美しくひらいているのを。この雪の下にひれふしたあらゆるもののこころが、そこで一つにかたまって、じっと堪え、忍び、春を待っているのを。〉『井上靖全詩集』新潮文庫

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by BOOKRIUM | 2014-02-19 18:29 | 当世本二十四節気 | Trackback | Comments(0)
立春(Beginning of Spring)……初めて春の気配が現れてくる日。この日以降初めて吹く南寄りの強風を「春一番」といい、以降、2回目、3回目を「春二番」「春三番」と言います。

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〈風は北風 冬風
 誰を誘いに来たのか
 子供は風車まわし まわされ
 遠くの空へ 消えてゆく

 小春おばさんの家は
 北風が通りすぎた
 小さな田舎町 僕の大好きな
 貸本屋のある田舎町

 小春おばさん 逢いに行くよ
 明日 必ず逢いに行くよ

 風は冷たい北風
 はやくおばさんの家で
 子猫をひざにのせ いつものおばさんの
 昔話を聞きたいな

 小春おばさん 逢いに行くよ
 明日 必ず逢いに行くよ〉
新潮文庫 井上陽水『ラインダンス』より
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by bookrium | 2014-02-04 19:33 | 当世本二十四節気 | Trackback | Comments(0)
大寒……寒さが一年の中で最も厳しくなる頃。

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〈いのちとはなんだろうか?
 それは、夜の闇のなかで
 またたく蛍の火。
 それは、冬場にバッファローの
 吐く白い息。
 それは、夕暮れの
 草むらを走りぬけて
 いずこかへと姿を消した小さな影。〉

  チーフ・クロウフット(イサボ・マキシカ) ブラックフット
  スタン・パディラ編 北山耕平訳『自然の教科書』より
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by bookrium | 2014-01-20 23:59 | 当世本二十四節気 | Trackback | Comments(0)
小寒……寒さが本格的に厳しくなってくる頃。この日から小寒の季節に入ることを「寒の入り」と呼ぶ。節分までが寒の内。

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〈そのころは、よく雪がふった。

 雪がふってくると、最初に、

 空が消えてしまう。それから、

 影が、物音が消えてゆく。

 鳥たちが消え、樹木たちが消え、

 往来が消えて、一日が

 ふりつづける雪のむこうに、

 きれいに消え去ってゆくようだった。

 あらゆるものが消え去って、

 朝には、世界がなくなっているかもしれない。

 ふりしきる雪のなかに、もし 

 ずっと立ちつくすと、それきり、

 じぶんもいなくなってしまうという気がした。

 雪がふってくると、

 すぐそこに、彼方があらわれる。

 雪のふりつづく日に、 

 雪の向こう側へいってしまったら、

 途をうしなってしまう。

 もう、大雪はふらなくなった。

 雪けぶる夜の、冬の幽霊たちもいなくなった。 

 それでも、雪の季節が近づくと、

 すぐこの彼方へ静かに消えていった、

 いつのまにかいなくなった人たちのことを、

 ありありと思いだす。

 生きているときは遠かった人たちも、

 死の知らせを聞くと、

 どうしてか近しく、懐かしく思われる。

 そうなのだ。もっとも遠い距離こそが、 

 人と人とをもっとも近づけるのだ。

 いま穏やかな冬の日差しのなかで思い知ること。〉「雪の季節が近づくと」長田弘


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by BOOKRIUM | 2014-01-05 15:14 | 当世本二十四節気 | Trackback | Comments(0)