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〈bookrium=book+aquarium〉本の海を回遊するブックリウムの、本と陶芸のある生活です。


by bookrium
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<   2010年 03月 ( 5 )   > この月の画像一覧

春分(しゅんぶん)……昼と夜の長さがほぼ同じになる頃。この日から後は昼の時間が長くなって行く。花冷えや寒の戻りがあるので、暖かいと言っても油断は禁物。彼岸の中日。


〈十一月、「春昼」新小説に出づ。うたゝねに恋しき人を見てしより夢てふものは頼みそめてき。(中略)「春昼後刻」を草せり。蝶か、夢か、殆ど恍惚の間にあり。〉
(自筆年譜)
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栞にしている観覧券は、泉鏡花記念館にはじめて入った時のもの。裏には〈2000年.9月.6日(水)〉と書いてあった。
『春昼』は明治39年11月、『春昼後刻』は同年12月に発表。鏡花33歳。
前年に祖母を失い、鏡花は静養のために妻すゞを伴って、東京から逗子へ転居した。静養は明治42年2月まで及んだ。
『春昼』は高校生の時読んだ。同じ逗子の頃の『草迷宮』も好き(久世光彦さんが5歳位から読んでた話を書いてた)。


おだやかな春の昼下がり、散策の途中、書生の青年は山寺の丸柱に貼られていた歌に目を留める。懐紙に優しく美しく書かれた女文字。出会った気さくな和尚から、その和歌にまつわる不可思議な男女の物語を聞く。

〈しかし、人には霊魂がある、偶像にはそれがない、と言うかも知れん。その、貴下(あなた)、その貴下、霊魂が何だか分らないから、迷いもする、悟りもする、危みもする、安心もする、拝みもする、信心もするんですもの。
  (中略)
偶像は要らないと言う人に、そんなら、恋人は唯だ慕う、愛する、こがるるだけで、一緒にならんでも可いのか、姿を見んでも可いのか。姿を見たばかりで、口を利かずとも、口を利いたばかりで、手に縋らずとも、手に縋っただけで、寝ないでも、可いのか、と聞いて御覧なさい。
 せめて夢にでも、その人に逢いたいのが実情です。〉


そう言う和尚の言葉を聞いた男は、柱にあった歌を思い出す。
小野小町の古歌を書いたのは、玉脇みをという美しい婦人だという。その恋歌のために、一人殺した。

〈恋で死ぬ、本望です。この太平の世に生れて、戦場で討死をする機会がなけりゃ、おなじ畳で死ぬものを、憧(こが)れじにが洒落ています。〉

詳しく話を聞くと、この久能谷に住むという玉脇夫人、その家には以前、ある客人の男が住んでいたという。客人は和尚に自分の恋心を語っていた。

〈唯すれ違いざまに見たんですが、目鼻立ちのはっきりした、色の白いことと、唇の紅(あか)さったらありませんでした。
  (中略)
 真直に前に出たのと、顔を見合わせて、両方へ避ける時、濃い睫毛から瞳を涼しく?(みひら)いたのが、雪舟の筆を、紫式部の硯に染めて、濃淡のぼかしをしたようだった。
 何とも言えない、美しさでした。〉


恋心を募らせた客人は、山路から囃の音に誘われて靄に包まれ、大きな横穴のある行き止まりに出る。ふと、拍子木がカチカチ鳴る。

〈で、幕を開けたからにはそれが舞台で。〉


ぼんやり一人で窪みを見ていると、暗い穴が30、50と。その中にずらりと並んだ女、女、女。座ったの立ったの片膝立てたの、緋の長襦袢、血を流したの、縛られたの。遠くの方は、ただ顔ばかり。仕切りの中からふらり、一人の婦人が音も無く現れて、舞台へ上がった。じっと客人の方を見る。その美しさ。――〈正しく玉脇の御新姐で。〉

客人が見たのは玉脇みをだけではなかった。
拍子木が鳴り、自分の背後から、ずッ、と黒い影がみをに寄り添う。こちらを向いた影の顔は、自分だった。影の自分は玉脇みをの寝衣の上を指の先でなぞる……△、□、◯と。
それを見た客人が夢中で逃げた翌日、玉脇みをは参詣し、あの歌を貼付けた。

   〈うたゝ寝に恋しき人を見てしより
         夢てふものは頼みそめてき
                ――玉脇みを――〉


客人の死骸は海で見つかった。(『春昼』)


和尚から話を聞いた男は庵を辞し、話を思い返しながら帰路につく。
ふと、行きがけに出会った、畑仕事をしていた親仁と再会する。寺に行く前、ある家を伺っていた蛇を忠告したのだ。親仁が蛇を片付けた後、家の主が忠告してくれた男に礼を言いたいという。
土手の上で紫の傘をさして休む、霞の端を肌に纏ったような美しい人。
玉脇みをだった。
彼女は「恋しい懐かしい方」に似たお方、と男のことを言う。

〈「そういうお心持ちでうたた寝でもしましたら、どんな夢を見るでしょうな。」
 「やっぱり、貴下のお姿を見ますわ。」
 「ええ、」
 「此処にこうやっておりますような。ほほほほ。」〉

〈「貴下、真個(ほんとう)に未来というものはありますものでございましょうか知ら。」
 「…………」
 「もしあるものと極りますなら、地獄でも極楽でも構いません。逢いたい人が其処にいるんなら。さっさと其処に行けば宜しいんですけれども、」〉


みをが持っていた手帳に、歌か絵が出来たのかと男は見せてもらう。
一目見て男は蒼くなった。
鉛筆で幾度も書かれていたのは、◯、□、△……。

太鼓の音が聞こえ、ふたりの前に獅子頭を乗せた角兵衛の子供たちが現れる。上は13・4、下は8つばかり。みをは子供たちを呼び止め、言づてを頼む。

    〈君とまたみるめおひせば四方の海の
           水の底をもかつき見てまし〉


手帳の端に書いた受け取る人のない歌。唯持って行ってくれればいい、とみをは子供たちに言う。上の子は幼い方の獅子頭の口を開いて、その中に納めた。

〈水の底を捜したら、渠(かれ)がためにこがれ死にをしたと言う、久能谷の庵室の客も、其処に健在であろうも知れぬ。〉


男はこの後、手紙の行方を知る。

〈玉脇の妻は霊魂の行方が分かったのであろう。〉
(『春昼後刻』)

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気になったところ覚え書き…
・観世音菩薩(桜心中でもでた)
・獅子頭の中に供える(天守物語でも)
・客人と、みをの△?◯の順番が違うのは意味がある?
・△?◯は墓石?
・囃、舞台の拍子木と、角兵衛獅子の太鼓。
・和尚が語るスタイル(高野聖のような入れ子)
・夢うつつの舞台(泉鏡花記念館で再現)より、みをのノートが怖い。


 
春昼(しゅんちゅう);春昼後刻(しゅんちゅうごこく) (岩波文庫)
泉 鏡花
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by bookrium | 2010-03-21 16:30 | 当世本二十四節気 | Trackback | Comments(0)

雪割草

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〈み雪降る冬は今日(けふ)のみ鴬の鳴かぬ春へは明日にあるらし〉
三形王
by bookrium | 2010-03-20 15:26 | 奥能登歳時記 | Comments(0)

白い雪割草

by bookrium | 2010-03-17 16:21 | 奥能登歳時記 | Trackback | Comments(0)
啓蟄(けいちつ)……冬ごもりをしていた虫(蟄)が、穴を開いて(啓いて)動き出す日。一雨降るごとに気温があがってゆき、春に近づいていきます。日差しも徐々に暖かくなってきます。
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〈その時、彼女はぼくを見た。彼女がぼくを見るのはそれがはじめてだと、ぼくは思った。(中略)光に照らされた彼女のまぶたは毎夜見なれたもののようにも思えた。そう思った瞬間、いつも頭にこびりついていたあの言葉がぼくの口をついて出た。《青い犬の目》すると彼女は燭台に手を置いたまま、《その言葉よ。もう忘れないようにしましょうね》と言った。そして今まで立っていた場所から移動しながら、ささやきかけてきた。《青い犬の目。わたしは、この言葉をいろんな場所に書きつづけてきたのよ》〉

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ガルシア=マルケスが若い日々に書いた『青い犬の目 死をめぐる11の短篇』井上義一 訳 より表題作。単行翻訳本が出版されたのは20年前の1990年。

〈《わたしは毎晩夢の中に現れて、青い犬の目と言いつづけたのよ》〉


夢の世界を浮遊するような女の言葉。

〈彼女の人生は《青い犬の目》というあの合い言葉を通じて、現実の中にぼくを見つけだすことに捧げられてきたのだった。それで街の中を大声を出して歩き、自分を理解してくれるただ一人の人間を探していたのだった。〉


彼女の話を聞いた〈ぼく〉は、目が覚めると〈君に会うための言葉〉が何だったのか忘れてしまうだろうと言う。

〈《はじめに、あの言葉を思いついたのはあなたなのよ》と彼女が言った。そこで、ぼくは《確かに、思いついたのはぼくだ。でもそれは、君の灰色の目を見たからだ。それなのに、次の朝になると、あの言葉を忘れてしまうんだ》と、言った。〉
〈《世界中のあらゆる都市の、あらゆる壁に「青い犬の目」と書かなければならないね》と、ぼくは言った。〉


遠い夢の中で何年も重ねた逢瀬。触れれば、何もかも消えてしまうだろう。ふたりは別々の世界で目覚め、眠ればまた出会うことはできるかもしれない。でも、会えないかもしれない。男はここを出て、目を覚まさなければならない。

〈《ドアを開けないで。廊下はうるさい夢でいっぱいなのよ》〉


〈外に出ると一瞬風が吹き寄せ、しばらくすると止んだ。ベッドで寝返りを打った人の寝息が聞こえてきた。野原の風が止まった。もう匂いはしなくなった。《そういうことなら、明日また君に気づくだろう。街で壁に「青い犬の目」と書いている女の人を見たら、君だと気づくだろう》と、ぼくは呟いた。彼女は悲しげな微笑を浮かべ――それはすでに、不可能なもの、手の届かないものに身を預けた微笑だったが――ぼくに言った。《でも日中は何ひとつ思い出せないわ》そして、もう一度燭台に手を置き、暗い霧に顔を曇らせた。《あなたは目が覚めると、夢に見たことを何ひとつ憶えていない、ただひとりの男なのよ》〉


短い話だけれど、なんとなく物悲しく、目覚めない夢の世界にひとりでいるような、女性のこの言葉が印象深かった。

〈《わたしは真夜中に目が覚めると、ベッドの回りをぐるぐる歩き、燃えるような枕の糸屑を膝に絡ませて、青い犬の目、って繰り返し言うのよ》〉


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by bookrium | 2010-03-06 00:02 | 当世本二十四節気 | Trackback | Comments(0)

バスを待つ犬

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この犬は足が白いところが靴下みたいで可愛いと思います。
by bookrium | 2010-03-02 11:33 | 奥能登歳時記 | Trackback | Comments(0)