〈bookrium=book+aquarium〉本の海を回遊するブックリウムの、本と陶芸のある生活です。


by bookrium
カレンダー
S M T W T F S
1 2 3 4 5
6 7 8 9 10 11 12
13 14 15 16 17 18 19
20 21 22 23 24 25 26
27 28 29 30

<   2009年 09月 ( 2 )   > この月の画像一覧

秋分――『メッシュ』

秋分(しゅうぶん)……太陽が秋分点に達し、昼と夜の長さがほぼ同じになる日。この日を境に、夜が長くなる。



           〈あなたが

            そうと
            望むなら

            花にも
            鳥にも
            娘にも

            この姿を
            かえたのに
 
            たとえば
            千の
            死体にも〉



c0095492_2194165.jpg
c0095492_2194228.jpg

小学館「萩尾望都 Perfect Selection」の『メッシュ』。表紙が白地に銀色の描線できれいな本。
1980年から1984年に発表された、パリを舞台にした連作集のこの漫画が好きです。


贋作画家のミロンはある晩、腕を折られた美しい少年を拾う。金髪に、こめかみが白銀の二毛色(メッシュ)。母親が駆け落ちし、スイスの山奥の寄宿舎に入れられていたが、12歳の時に銀毛が現れ始めると、後妻と娘のいる父親は掌を返した。今まで我が子だと信じていなかった〈メッシュ〉に母親の悪口を吹き込み、心の支えにしていた彼の母親像をずたずたにし、自分の手元に置こうとする父親〈サムソン〉。メッシュは自分の精神を引裂いた父親への復讐――父を殺し、自由になることを考えている。そんなメッシュを見てミロンは考える。

〈あの晩/オレが拾ったのは/なんだったんだろう?
 天使じゃなくて?/悪魔でもなくて……?
 二毛色(メッシュ)の…?/なんて生き物を/拾ったのだろう……?〉
《メッシュ》


ミロンのアパートの居候になったメッシュ。殺し屋の銃を手に入れ、サムソンを撃つが失敗してしまう。〈あいつがいる限りオレは人間にはなれないんだ/一生あいつにおしつぶされつづけるんだ〉〈……どうしてオレは/こんなにひとを憎めるんだ?〉泣きながらそう言うメッシュ。修道院のような寄宿舎で、ただ自分の名前を呼んでくれる、優しい父が来てくれるのを夢見ていた。ミロンは父親の代わりに、メッシュの本当の名前を優しく呼んでやる――〈フランソワーズ〉と。《ルージュ》
無彩色のパリの美しい街に、ためいきのように白い雪が降る。ミロンの描いた偽のユトリロを売りに、郊外のムッシュ・ブランの屋敷へ行ったメッシュたちが巻き込まれる騒動。《ブラン》
番地を間違えてミロンのアパートにやって来た女性ココに頼まれ、公演を手伝うことになったふたり。ミロンは幕の絵を描き、メッシュは死神役をすることに。劇団員たちの人間関係に巻き込まれ、あやまって演出家を殺したと勘違いしたメッシュは街に飛び出してしまう。〈ずっとずっと昔はね/誰かを愛してたような気がするんだけど/でも/あまり昔のことでわすれた……〉自殺しようと夜の街をさまようメッシュは、自分に優しくしてくれたミロンのことを思い出し、手紙を書こうとするが。……《春の骨》
14で家出してパリに来たメッシュがもぐりこんだ裏町の世界。《モンマルトル》
雨夜の公園で悲しそうに歌っていた美しいジュヌヴィエーヴ。女に間違われたメッシュは、はじめての恋をする。《革命》
未婚でミロンを産んだ、亡くなった母の故郷からきた突然の手紙。海のそばの小さな田舎町をひさしぶりに訪ねたミロンと、勝手について来たメッシュ。ミロンに冷たい町の人々。それはミロンの少年時代にあった海難事故のせいで……。《耳をかたむけて》
顔に矢が刺さって星のような跡がある画家のエトゥアールと知り合ったメッシュ。彼のアトリエで天使のモデルのアルバイトをすることになるが。《千の矢》
いつも母に美人の姉と比べられ反発している不良少女ルーと、ひょんなことから出会ったメッシュ。《苦手な人種》
パリのパトロンのパーティーにやって来たドイツのデザイナー・オズと恋人ダーダ。人手が足らずモデルをすることになったメッシュは、オズの学生時代の友人マルラと夫ルシアンの関係に巻き込まれ……。《謝肉祭》
雑誌に載った、オズのモデルをしたメッシュの写真を見て、ある男から電話がかかってきた。メッシュの母親〈マルセリーナ〉の名前を知っていた男。彼ルイードはマルセリーナの再婚相手の息子だった。何もおぼえていない母親が生きていることを知ったメッシュは動揺する。一緒に暮らして1年になるミロンが、メッシュの義母エーメから金を受け取っていたことを知り、喧嘩した勢いでルイードと一緒にマルセリーナに会いに聖モーゼルへ行く。《シュールな愛のリアルな死》


マルセリーナ――マルシェは心を病んでいた。自分の産んだ〈フランソワーズ〉は女の子だと信じていて、メッシュのことをわからない。ルイードはマルシェの心を占める〈フランソワーズ〉に嫉妬し、乱暴してしまおうとかつて不良仲間に言っていた。それにのった男たちがルイードに内緒でメッシュに襲いかかる。

〈だけどあんたたちは娘がほしいんだ
 あんたも/マルシェも/ルビエ氏も/あのパジャンたちも だ
 フランソワーズという娘が
 その名前は母親がつけた
 そしてそのとおりにオレはやってる
 あんたたちの望みどおりにさ
 セリフを決められたしばいをやるみたいにさ〉


ルイードにそう言うメッシュ。迎えに来たミロンに〈……人間から生まれたくない〉と言っても、自分のことをわからない母親、彼女の望みが何か、どうしたらそれに近づけるだろうかと考えてしまう。そんなメッシュをマルシェの狂気が襲い……。


時間をかけて、いろんな出会いを経験したメッシュ。成長していくメッシュに重なった、この物語のラストは、非常にうつくしかったです。


c0095492_2194229.jpg



            〈あなたが
             そうと
             望むなら

             花にも
             鳥にも
             娘にも

             この姿を
             かえても
             よかったのに

             それは
             愛では
             ないにしろ〉

[PR]
by bookrium | 2009-09-23 00:09 | 当世本二十四節気 | Trackback | Comments(0)

白露――『天守物語』

白露(はくろ)……秋の気配が感じられる頃。大気も冷えてきて、朝夕に露が見えはじめます。秋草が揺れ、虫の音も聞こえます。


〈――そうおっしゃる、お顔が見たい、唯一目。……千歳百歳(ちとせももとせ)に唯一度、たった一度の恋だのに。〉


c0095492_1458591.jpg

播州姫路〈白鷺城〉の天守に、魔物が棲むという。
物語の始まりで、天守夫人〈富姫〉の侍女たちは唄いつつ、五重の天守から秋草を釣る。白露を餌にして。
c0095492_16432321.jpg

c0095492_1643235.jpg

〈千草八千草秋草が、それはそれは、今頃、露を沢山(たんと)欲しがるのでございますよ。刻限も七つ時、まだ夕露も夜露もないのでございますもの。〉

侍女の〈葛〉は奥女中の〈薄〉にそう言う。
富姫の妹分、猪苗代の〈亀姫〉が手鞠をつきに遊びに来るので仕度をしていたところ。富姫から見れば長屋の主人、姫路の城主、播磨守が鷹狩に出たので、霧を渡って輿で訪れる亀姫に不作法があってはと、富姫は〈夜叉ケ池〉の主〈白雪姫〉に嵐を頼んでいた。
〈朱の盤〉〈舌長姥〉らを伴って、亀姫は天守に到着する。富姫への土産は、播磨守と兄弟の、亀姫の棲む亀ケ城の城主の首。富姫はそれを獅子頭に供え、獅子は首を呑み込んだ。
亀姫への礼にと、富姫は白い雪のような翼を持つ鷹を播磨守から奪い、地上からの矢や鉄砲を虫のように払う。
亀姫が去ってしばらくすると、ひとりの男が天守に上って来た。武士の名前は〈姫川図書之助〉。

〈百年以来、二重三重までは格別、当お天守五重までは、生あるものの参った例(ためし)はありませぬ。〉


そう言う図書之助は播磨守の命で、天守に隠れた秘蔵の鷹を探しに来た。

〈翼あるものは、人間ほど不自由ではない。千里、五百里、勝手な処へ飛ぶ、とお言いなさるが可い。〉


富姫の言葉に従う図書。生ある人ではない姿を見、どうするつもりか姫が訊くと、この天守が貴方のものでも殿のものでも、〈いずれにいたせ、私のものでないことは確でございます。自分のものでないものを、殿様の仰せも待たずに、どうしようとも思いませぬ。〉と〈すずしい言葉〉で図書は言う。その心のために、図書は姫に許される。もう来てはならぬと、〈此処は人間の来る処ではないのだから〉と言われて。……

天守から降りる途中で蝙蝠に燈を消され、図書は再び富姫の元を訪れてしまう。暗闇で男が足を踏み外し怪我をするより、姫に生命を召される方を選んだのだ。その勇ましさに姫は惹かれる。
図書は切腹を命じられていた。鷹匠の彼が播磨守の白鷹を天守に逸らした罪だという。その鷹は姫が取ったのだと聞き、図書は思わず刀に手を掛ける。

〈鷹には鷹の世界がある。露霜の清い林、朝嵐夕風の爽かな空があります。決して人間の持ちものではありません。〉


美しく気高い姫君に、自分の身、心、生命を捧げられても、図書は地上にまだ親や師の未練があった。
清い心を持つ図書に、富姫は天守に上った記しの品と家宝の青竜の兜を渡す。〈今度来ると帰しません。〉と告げて。
かねてからの望みに叶った男を、自分の力で無理に引き留めることも本当はできた。でも、力で人を強いるのは播磨守のような者のすること。

〈真の恋は、心と心、……〉


そう呟く姫の元に、兜を盗んだ逆賊と知らぬ罪に追われた図書が逃げ込んで……。

c0095492_1458571.jpg

泉鏡花の戯曲『天守物語』は高校生の時に読んだり(そのころ映画になった)、写真の波津彬子さんの漫画で読んだりしました。この文庫の漫画は、9年位前に、泉鏡花記念館に初めて行った時にショップで購入。『天守物語』の他にも戯曲『夜叉ケ池』『海神別荘』と、巻末では泉鏡花記念館を訪ねる漫画も載っています。解説は人形師の辻村寿三郎。
『夜叉ケ池』では、池の主〈白雪姫〉が白山の〈千蛇ケ池〉の若君に恋わずらいをするのですが、千蛇ケ池は中学1年生の時、学校の白山登山のついでに希望者だけで見に行きました(当時は千蛇ケ池の昔話を知ってたので見たかった)。鏡花も登っただろか?

『天守物語』は富姫と図書の恋だけではなく、姫の過去や獅子頭の伝説、姫の百姓への思いやりと私欲のない鳥の自由さが印象深いです。

c0095492_16432382.jpg




[PR]
by bookrium | 2009-09-07 14:58 | 当世本二十四節気 | Trackback | Comments(0)