〈bookrium=book+aquarium〉本の海を回遊するブックリウムの、本と陶芸のある生活です。


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作次郎のひとり言

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〈私のこのやうな作品は、小説として本格的なものかどうかの論はさし置いて、恐らく今日の時代に於て、非時流なものだらうと思はずに居られない。〉「ひとり言(序に代へて)」

事変以来、戦争小説、国策物が増えてきた中で、便乗することも好むこともなかった加能作次郎。
私小説や心境小説の類は影をひそめた、その代わりに、〈時流的なあまりに時流的な、また、小説的なあまりに小説的な作品が多過ぎるのも事実である。〉

父について、母について、お信さんについて、珠のような小説を書いた。

〈さういう中に、このやうな私の作品集の一冊位はあつても、却つて変つてゐていいかも知れない。〉

昭和16年7月下旬に作次郎は記し、8月5日に急死した。
久しぶりの作品集『乳の匂ひ』の朱を入れた校正刷りが枕元に置かれる。表紙の字を10枚も20枚も下書きした『乳の匂ひ』は、没後すぐに刊行された。

〈矢張り相変らず自分自身の片隅で、自分自身の声に耳を傾けながら、恰も靴屋が靴を作るやうに、こつこつと自分の身に適つた作品の製作に精進してゐる外はなかつた。〉

広津和郎は「美しき作家」で友人加能作次郎について書いている。

〈時流に迷わされる事なく、彼自身の道をとぼりとぼり歩いて来たといへる。〉

〈異常に正直な加能君は、文壇に生きる戦法を知らなかつた。いや、知つてゐたとしてもそんな戦法を彼は取ることが出来なかつた。彼が材料の範囲を拡げずに、みづから狭い範囲にくぎつたのも、恐らく彼のはにかみからに違ひない。〉



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by BOOKRIUM | 2018-09-08 21:48 | 北陸の作家 | Comments(0)