〈bookrium=book+aquarium〉本の海を回遊するブックリウムの、本と陶芸のある生活です。


by bookrium
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魚上氷--『自然の恵みーー少国民のための新しい雪の話』

立春末候・魚上氷(うおこおりをいずる)Fish Rise From the Ice……氷がぬるみ、割れた氷の上にに魚が飛び跳ねる頃。

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〈われわれは大きい自然の中で生きている。この自然は、隅の隅まで、精巧をきわめた構造になっている。その構造には、何一つ無駄がなくて、またどんな細かいところまでも、実に美しく出来上がっている。〉

平凡社STANDARD BOOKS 中谷宇吉郎『雪を作る話』の巻頭が「自然の恵み」です。1951年、51歳。
恩師の寺田寅彦が書いていた、精巧につくられた造花でも虫眼鏡でのぞいてみると汚らしいが、どんなつまらぬ雑草の一部でも顕微鏡でみると驚くほど美しい、という言葉。

〈そのものの深い奥底くにかくされた造化の秘密には、不思議さと同時に美しさがある。そしてその不思議さと美しさとにおどろく心は、単に科学の芽生えばかりではなく、また人間性の芽生えでもある。〉

水蒸気が〈かく〉にくっついて出来たきわめて小さい氷の結晶。上空で出来た氷晶がゆっくり降ってくる間に、さらに水蒸気が凍りつき、だんだん大きくなって、地表に雪の結晶が降ってくる。
小人の国の勲章のような美しい結晶に、人々は気づかない。

〈自分の眼で一片の雪の結晶を見つめ、自然の持っている美しさと調和とに眼を開くことの方が、ずっと科学的である。〉

顕微鏡を必要としない美しさ、科学への心。雪に限らず、人々の周囲にはあらゆるものが、常に自然の美しさと調和、全体の姿をあけ放している。
科学の普及が〈自然の女神の恵み〉を人間が受け入れる邪魔をしないことを希望する著者。

〈科学の進歩が、原子爆弾を作ることだけに役立つものならば、科学はむしろ進歩しない方がよいかもしれない。〉

原子力は人間の科学史上で勝利の一方、幸福をもたらすのか。
雪の結晶が空から降り積もることについて、親しみやすい案内の文章の中で、戦後6年の文章には原子爆弾の生々しさがあります。

〈しかし科学はたしかに人間の幸福に役立つものであって、その一つに、新しい美を発見する大切な要素があることを忘れてはならないのである。〉









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by bookrium | 2018-02-14 00:00 | 涼風本朝七十二候 | Trackback | Comments(0)