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〈bookrium=book+aquarium〉本の海を回遊するブックリウムの、本と陶芸のある生活です。


by bookrium
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清明――『四月のある晴れた朝に100パーセントの女の子に出会うことについて』

清明(せいめい)……「清浄明潔」の略。万物清く陽気となり、百花咲き競う季節。


〈四月のある晴れた朝、原宿の裏通りで僕は100パーセントの女の子とすれ違う。〉


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〈彼女は東から西へ、僕は西から東へ向けて歩いていた。とても気持ちの良い四月の朝だ。
  (中略)
 可能性が僕の心のドアを叩く。
 僕と彼女のあいだの距離はもう15メートルばかりに近づいている。
 さて、僕はいったいどんな風に彼女に話しかければいいのだろう?〉



村上春樹の短篇選集『象の消滅』の一篇。
彼女は綺麗なわけでも目立つところがあるわけでも、もう女の子と呼べる歳でもない。好みのタイプというのともちがう。
ただ自分にとっての100パーセント。
突然そんな話を彼女にしても、彼女はびっくりするだろうし、もしかしたらこう言うかもしれない。――〈あなたにとって私が100パーセントの女の子だとしても、私にとってあなたは100パーセントの男じゃないのよ、申し訳ないけれど、〉

32ともう若くはない、100パーセントではないかもしれない〈僕〉は、拒まれるのを恐れて話しかけられない。

〈花屋の店先で、僕は彼女とすれ違う。温かい小さな空気の塊りが僕の肌に触れる。アスファルトには水が撒かれていて、あたりにはバラの花の匂いがする。僕は彼女に声をかけることもできない。彼女は白いセーターを着て、まだ切手の貼られていない白い角封筒を右手に持っている。彼女は誰かに手紙を書いたのだ。彼女はひどく眠そうな目をしていたから、あるいは一晩かけてそれを書き上げたのかもしれない。そしてその角封筒の中には彼女についての秘密の全てが収まっているのかもしれない。
 何歩か歩いてから振り返った時、彼女の姿はもう既に人混みの中に消えていた。〉


ただすれ違った彼女に、どんな風に話しかければよかったか、今ならわかる。
それは、「昔々」で始まり、「悲しい話だと思いませんか」と終わる、小さなお話だった。

この寓話のような短い話を読むと、なぜかドーデの小説を思い出す。
お嬢さんと羊飼いと星の話。
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「象の消滅」 短篇選集 1980-1991
村上 春樹
新潮社
売り上げランキング: 11,540

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by bookrium | 2010-04-05 01:03 | 当世本二十四節気 | Trackback | Comments(0)