人気ブログランキング |

〈bookrium=book+aquarium〉本の海を回遊するブックリウムの、本と陶芸のある生活です。


by bookrium
カレンダー
S M T W T F S
1 2 3
4 5 6 7 8 9 10
11 12 13 14 15 16 17
18 19 20 21 22 23 24
25 26 27 28 29 30 31

小寒――『雪』

小寒(しょうかん)……寒さが本格的に厳しくなってくる頃。この日から小寒の季節に入ることを「寒の入り」と呼ぶ。節分までが寒の内。毎年新暦1月6日頃。


〈野田三吉は正月元日の夕方から三日の朝まで、東京高台のホテルに、ひとりかくれて過ごすのが、ここ数年の習わしであった。ホテルには立派な名があるけれども、三吉は幻ホテルと呼んでいる。〉

川端康成『掌の小説』から、「雪」。
三吉の家族も年賀の客も、彼が幻ホテルで本当に幻を見ていることを、知らない。
幻ホテルに泊まる部屋は毎年決まっていて、その部屋を〈雪の間〉と呼ぶのも三吉だけ。
ホテルのカーテンを閉めて部屋に籠り、ベッドに横になっていると、やがて疲労の底から幻が浮かんでくる。

〈目を閉じた闇のなかに、粟つぶほどの小さい光のつぶが、舞い流れはじめる。そのつぶつぶはすき通るように淡い金色である。その金色が白い薄光りに冷えてゆくにつれて、つぶの群れが動く方向も速度もそろって来て、粉雪になる。遠くに降る粉雪に見える。
「今年の正月も粉雪は降ってくれた。」
 (中略)
 もう目をあいてもよろしい。
 三吉が目をあくと、部屋の壁が雪景色になっている。目ぶたのなかの雪は、ただ降り落ちる雪片だけであったが、壁に見えるのは、雪の降る景色である。〉

三吉は粉雪の降る野原に亡き父を見る。父は三つか四つの幼い三吉を抱いている。五十四歳の三吉は、雪景色の中の父に話しかける。
やがて、降りしきるぼたん雪の中に、雪色の大きな翼をもった音のない鳥の群れがゆく。

〈「なんの鳥……? なん羽なんだろう。」
 「鳥ではないの。つばさに乗っているものがお見えにならない?」雪の鳥は答えた。
 「ああ、わかった。」と三吉は言った。
  三吉を愛してくれた女たちが、雪のなかの鳥に乗って来たのである。どの女から先きに話したものか。〉


c0095492_029664.jpg



掌の小説 (新潮文庫)
掌の小説 (新潮文庫)
posted with amazlet at 13.12.09
川端 康成
新潮社
売り上げランキング: 31,799

トラックバックURL : https://bookrium.exblog.jp/tb/13666833
トラックバックする(会員専用) [ヘルプ]
※このブログはトラックバック承認制を適用しています。 ブログの持ち主が承認するまでトラックバックは表示されません。
by bookrium | 2010-01-05 09:09 | 当世本二十四節気 | Trackback | Comments(0)