〈bookrium=book+aquarium〉本の海を回遊するブックリウムの、本と陶芸のある生活です。


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旅する詩集 金子彰子『二月十四日』


          〈細い将来しか
           山峡に描けず
           索漠とした
           家に生まれ
           手にしたものは本しかなかった〉


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11月2日に届いた、金子彰子さんの私家版の詩集『二月十四日』。
先日、「いま気になるもの」のひとつとして取り上げたところ、ご本人よりコメントがあり、縁あって1冊いただきました。表紙に直接メッセージが書かれていて、ちょっとびっくりしました。ありがとうございます。

この詩集ができるまでの一連の流れ、金子さんの詩、人と人の縁、というものに注目していました。でも自分が手に取れることはないだろうと思ってブログに取り上げたので、どしゃぶりの雨風の強い日にポストに入っているのを見た時は、おぉと思った。コピーをホッチキスで留めた、ご自分で製本した、17篇を収めた薄い詩集です。桃色の和紙の裏表紙がかわいらしい。
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表題作の「二月十四日」は金子さんが十代の時に書かれた詩。それは井坂洋子『ことばはホウキ星』という本に収められ、いくつかの詩は雑誌『鳩よ!』に掲載された。
しかし表現の場を見つけられず、いつしか詩作を止め、働き、生活されていた。

〈「二月十四日」が生まれてから、このささやかな詩集を編むまでに、四半世紀の時が流れています。〉


あとがきで金子さんはそう言います。
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金子さんを触発したのは、今年の3月に東京で行われた、詩人のpippoさんとライターの岡崎武志さんのライブ&ポエムショーで朗読された、15歳の自分が書いた詩「二月十四日」でした。
その詩は岡崎さんのブログで紹介され、山本善行さんのブログに広がり、お二人と出会った金子さんが「書かないなんてもったいない」という言葉に、また詩を書き始める。
金子さんは自分の詩の表現の場に春からブログを開設し、今の生活から生まれた詩と、『鳩よ!』に掲載された過去の詩が同居する。それらの詩を目に留めた人たちが、またブログなどに書き、広がってゆく。金子さんも刺激を受け、過去の少女の詩と今の詩を合わせた17編をまとめた、手作りの詩集を作る。あとがきは、40回目の誕生日に書かれた。
そして、金子さんは東京の古書店「音羽館」や、京都の古書店「善行堂」に無料の詩集を置き、完成した詩集が欲しいというひとたちが現れ始める。その一人が、自分でした(でもたいへんそうなのでご本人のブログには書き込めなかった。そのころはスムースでいつか本になるかな? という可能性を持ってた)。

京都・知恩寺での古本まつり、それに合わせて10月31日に仕上がった20数冊の詩集を持って善行堂さんへ行った金子さんを待っていたのは、金沢の出版元・龜鳴屋さんの、あらためて詩集にしませんか、というお誘いでした。
そして、金子さんの手元から→京都→金沢(龜鳴屋)→〠→能登を移動し、わたしのところまで『二月十四日』がやって来ました。

〈昨日のことを考えていたら、いつもの仏壇屋の前、信号待ちで目と鼻から泪が。たとえ、それが文学ではないとしても、おまえはどうしても書きたいことがあるんだとルームミラーの自分を見て思った。それを掘り起こしていただいた方々に感謝を捧げる。〉


11月1日「忘れないように」と書かれた、金子さんのブログ。金子さんの詩や言葉からは、いつもひたむきさが伝わります。照れのない、真正面さ。半年で、人はここまで突き進むのだと。いつの日か、本当に1冊の本になったらいいなと思います。
冒頭に一部引用した「本」という詩が好きです。この詩を読んでいたから、詩集を欲しいと思いました。これはたぶん現在の金子さんが書かれた詩かと思います。

たまに、自分の針が振れる言葉が世の中にある、と思っていた。
これは、振り切った。
〈たとえ、それが文学ではないとしても、〉この一篇に引き寄せられる人は、まだ現れると思います。



          〈細い将来しか
           山峡に描けず
           索漠とした
           家に生まれ
           手にしたものは本しかなかった


           粘土に彩られた町で
           生計をたてていくすべをしるも
           地縁もなく
           しゃべれば不興を買う
           失笑の生活史
           貝のように生きて 
           ざるの底で見つけたのは
           あの言葉だったろうか


           ながれてゆくには障りがあると
           それをかみちぎり
           放擲したつもりでも
           胸をさわれば
           しずかな文字たちが
           海の砂のように
           確かにつもって
           しずんでいる〉





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Commented by 金子彰子 at 2009-11-06 20:06 x
丁寧に紹介いただきまして、ありがとうございます。亀鳴屋さんにお会いして、サインという時に筆記用具が見当たらず、あわてふためいて、表紙に!意味不明なことを書きつけ失礼しました。ご紹介いただいたことを亀鳴屋さんに申したところ、もう見ておられたようで、「期待を裏切らない本にしなくては」と感銘を受けておられるようでした。私も思いは同じです。完成のご報告がいつかできたらと思います。それでは失礼します。
Commented by bookrium at 2009-11-06 21:35
金子さん、読んでくださってありがとうございます。
前に取り上げた時は、ご本人より連絡があるとは思ってなかったので、縁あって手に取れてうれしく思っています。
龜鳴屋さんからもメールをいただき、うれしかったです。
詩が形になるのをたのしみにしています。
by bookrium | 2009-11-04 17:18 | 好きな本 | Trackback | Comments(2)