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〈bookrium=book+aquarium〉本の海を回遊するブックリウムの、本と陶芸のある生活です。


by bookrium
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白露――『天守物語』

白露(はくろ)……秋の気配が感じられる頃。大気も冷えてきて、朝夕に露が見えはじめます。秋草が揺れ、虫の音も聞こえます。


〈――そうおっしゃる、お顔が見たい、唯一目。……千歳百歳(ちとせももとせ)に唯一度、たった一度の恋だのに。〉


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播州姫路〈白鷺城〉の天守に、魔物が棲むという。
物語の始まりで、天守夫人〈富姫〉の侍女たちは唄いつつ、五重の天守から秋草を釣る。白露を餌にして。
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〈千草八千草秋草が、それはそれは、今頃、露を沢山(たんと)欲しがるのでございますよ。刻限も七つ時、まだ夕露も夜露もないのでございますもの。〉

侍女の〈葛〉は奥女中の〈薄〉にそう言う。
富姫の妹分、猪苗代の〈亀姫〉が手鞠をつきに遊びに来るので仕度をしていたところ。富姫から見れば長屋の主人、姫路の城主、播磨守が鷹狩に出たので、霧を渡って輿で訪れる亀姫に不作法があってはと、富姫は〈夜叉ケ池〉の主〈白雪姫〉に嵐を頼んでいた。
〈朱の盤〉〈舌長姥〉らを伴って、亀姫は天守に到着する。富姫への土産は、播磨守と兄弟の、亀姫の棲む亀ケ城の城主の首。富姫はそれを獅子頭に供え、獅子は首を呑み込んだ。
亀姫への礼にと、富姫は白い雪のような翼を持つ鷹を播磨守から奪い、地上からの矢や鉄砲を虫のように払う。
亀姫が去ってしばらくすると、ひとりの男が天守に上って来た。武士の名前は〈姫川図書之助〉。

〈百年以来、二重三重までは格別、当お天守五重までは、生あるものの参った例(ためし)はありませぬ。〉


そう言う図書之助は播磨守の命で、天守に隠れた秘蔵の鷹を探しに来た。

〈翼あるものは、人間ほど不自由ではない。千里、五百里、勝手な処へ飛ぶ、とお言いなさるが可い。〉


富姫の言葉に従う図書。生ある人ではない姿を見、どうするつもりか姫が訊くと、この天守が貴方のものでも殿のものでも、〈いずれにいたせ、私のものでないことは確でございます。自分のものでないものを、殿様の仰せも待たずに、どうしようとも思いませぬ。〉と〈すずしい言葉〉で図書は言う。その心のために、図書は姫に許される。もう来てはならぬと、〈此処は人間の来る処ではないのだから〉と言われて。……

天守から降りる途中で蝙蝠に燈を消され、図書は再び富姫の元を訪れてしまう。暗闇で男が足を踏み外し怪我をするより、姫に生命を召される方を選んだのだ。その勇ましさに姫は惹かれる。
図書は切腹を命じられていた。鷹匠の彼が播磨守の白鷹を天守に逸らした罪だという。その鷹は姫が取ったのだと聞き、図書は思わず刀に手を掛ける。

〈鷹には鷹の世界がある。露霜の清い林、朝嵐夕風の爽かな空があります。決して人間の持ちものではありません。〉


美しく気高い姫君に、自分の身、心、生命を捧げられても、図書は地上にまだ親や師の未練があった。
清い心を持つ図書に、富姫は天守に上った記しの品と家宝の青竜の兜を渡す。〈今度来ると帰しません。〉と告げて。
かねてからの望みに叶った男を、自分の力で無理に引き留めることも本当はできた。でも、力で人を強いるのは播磨守のような者のすること。

〈真の恋は、心と心、……〉


そう呟く姫の元に、兜を盗んだ逆賊と知らぬ罪に追われた図書が逃げ込んで……。

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泉鏡花の戯曲『天守物語』は高校生の時に読んだり(そのころ映画になった)、写真の波津彬子さんの漫画で読んだりしました。この文庫の漫画は、9年位前に、泉鏡花記念館に初めて行った時にショップで購入。『天守物語』の他にも戯曲『夜叉ケ池』『海神別荘』と、巻末では泉鏡花記念館を訪ねる漫画も載っています。解説は人形師の辻村寿三郎。
『夜叉ケ池』では、池の主〈白雪姫〉が白山の〈千蛇ケ池〉の若君に恋わずらいをするのですが、千蛇ケ池は中学1年生の時、学校の白山登山のついでに希望者だけで見に行きました(当時は千蛇ケ池の昔話を知ってたので見たかった)。鏡花も登っただろか?

『天守物語』は富姫と図書の恋だけではなく、姫の過去や獅子頭の伝説、姫の百姓への思いやりと私欲のない鳥の自由さが印象深いです。

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by bookrium | 2009-09-07 14:58 | 当世本二十四節気 | Trackback | Comments(0)