〈bookrium=book+aquarium〉本の海を回遊するブックリウムの、本と陶芸のある生活です。


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島田清次郎…1 久世光彦『ひと恋しくて 余白の多い住所録』

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知っている人は、半ば愛惜をこめ、半ば軽侮して〈シマセイ〉と呼び、知らない人は、みごとに何も知らない。それが島田清次郎である。〉

『ひと恋しくて 余白の多い住所録』で、久世光彦さんは島田清次郎のことをこう書き出しました(表紙にも宇野亜喜良描く島清がいます)。

〈どうしてか、島清のことが気になって仕方がなかった。ジュリアン·ソレルは卒業できたつもりでも、島清が二十二歳の秋からまとわりついて離れないのである。人間一つ間違えば、誰だって島清になるかもしれない怖さからだろうか。それとも、悪い夢でも、見ないよりは見たいと願うのが人間だと思うからなのだろうか。何とか私は、私の中の島清を片づけないと、気持ちの落ち着きが悪いのである。そう思いはじめて十年ほど経った二年前、早坂暁さんが「島清をやろう」と私に囁いた。〉


1994年に中央公論社から出た本。早坂暁氏は島清のことが〈不憫でならない〉と久世さんに言います。早坂暁氏のことを久世さんはこう綴りました。

〈ふとこの人が洩らした〈不憫〉という言葉に、私は拘泥した。この人には、アウトサイダーへの〈不憫〉の情と、それとおなじくらいの同化願望があるのではないか。いま、ゆくりなくもインサイドに在る自分に浮き足立ち、激しい含羞(はじらい)に身をよじっているのではあるまいか。(中略)この人はそろそろ老年にさしかかろうとして、不遜の少年なのである。堕落の少年なのである。不安の少年であり、驕慢で小心の少年なのである。〈不憫でならない〉の一言を聞いて、私は、はじめてこの人を好きだと思った。〉


演出家の久世光彦と脚本家の早坂暁に、〈同病〉のNHKの高橋康夫氏が話に乗って、〈島清〉はドラマになりました。清次郎没後65年の平成7年(1995年)の春に放送された「涙たたえて微笑せよ 明治の息子·島田清次郎」。主演は本木雅弘。

ドラマの放送時は高校生になったばかりだった。けれど島田清次郎のことはその前から知っていたので、このドラマをとても楽しみにして見た(でも冒頭の元妻·清水美砂の数十年後役を演じる加藤治子しか覚えてない)。当時は久世ファンでもなかったので『ひと恋しくて』は放送後に読みました。
清次郎を知ったのは、14歳位の時に読んだ森田信吾の『栄光なき天才たち』というマンガです。このシリーズは清次郎以外も浮谷東次郎とかフーディーニとか印象深い人達ばかりでした。今は文庫版とか携帯でも読めます。杉森久英の『天才と狂人の間』を読むと、マンガの8、9割がこの本からだった。でも10年以上強く印象に残っていた2つのシーンが、杉森本にないマンガのフィクション部分だったのが面白い。
印象に残っていたのは、廓で育つ少年時代の清次郎が芸妓見習いの美しい少女とふたりきりで話していて、少女が蚊を叩き「馬鹿な蚊……」と呟くシーン。それに、小説『地上』の原稿を渡したがなかなか読んでくれない生田長江の家に、清次郎が夜忍び込んだら、生田が清次郎の原稿を真剣に読んで深く感動しているところ。

島田清次郎は明治32年(1899年)に石川県の美川町で生まれ、2歳で父と死別、5歳から母と金沢の西の廓で暮らし始めた。20歳で新潮社から発表した『地上』第一部が空前のベストセラーになるが、その言動、女性スキャンダルから失墜、25歳の時歩行途中に挙動不審で尋問逮捕される。早発性痴呆症と精神鑑定を受け保養所に収容され生涯退所できず、昭和5年(1930年)31歳で肺結核で亡くなった。

〈しかし、この知ってる知らないの比率は、一対九十九ぐらいで、つまり世のほとんどの人は、いま島清の名前さえ知らない。〉


久世さんはこう書きましたが、今も島田清次郎を話題にするのは杉森久英の本か、マンガか、ドラマで見知った人たち位です。比率は大して変わってないと思う。

清次郎の『地上』はドラマを見た後17歳位の時に図書館で借りて読みました。その後、金沢で彦三町の金沢商業学校跡の前(学校の碑が建ってる)をよく通ると「清次郎が15歳の時に通った」と思い、バスとかで紫錦台中学校のそばを通ると「清次郎が通った学校(二中)+地上の冒頭」と思い出していました。
この十数年、なんとなく清次郎のことを時折思い出すのですが、思い出すだけで何もしない。西茶屋街には資料が展示してあるそうです。まだ見てない。昔の石川近代文学館にも展示がありました。
清次郎のことについて書かれたものは、言動やその生涯からか、現在も揶喩したものが大半です。『天才と狂人の間』は概ね中立だと思う。

清次郎はそれほど笑われる者だろうか? と時々思う。でも不憫に思う人も、今はあんまりいないだろう。
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by bookrium | 2009-04-10 08:27 | 北陸の作家 | Trackback | Comments(0)