〈bookrium=book+aquarium〉本の海を回遊するブックリウムの、本と陶芸のある生活です。


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黄鶯睍睆(うぐいすなく)The Nightingale Sings……春告鳥と呼ばれるうぐいすが鳴き始める

〈世界を、こんなふうに見てごらん。
この本を、これからの少年少女と大人に贈る。
人間や動物を見るときのぼくなりのヒントをまとめたものだ。
生きているとはどういうことか。
豊かな見方をするといいと思う。〉「はじめに」

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2010年1月に発表された、日高敏隆『世界を、こんなふうに見てごらん』。
これは動物行動学者の著者の最後の著作。2009年11月に亡くなられ、著者の代わりに「あとがき」は12月に今福道夫氏が書かれています。

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〈先生は最後まで、自分が見て感じたものを書き残そうとしていた。〉「あとがき」

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by bookrium | 2017-02-08 22:04 | 涼風本朝七十二候 | Trackback | Comments(0)
東風解凍(はるかぜこおりをとく)Spring Winds Thaw the Ice……東から吹く風が厚い氷を解かし始める時季。立春を過ぎて最初に吹く強い南風が春一番。


〈自然科学者が書いた随筆を読むと、頭が涼しくなります。科学と文学、科学と芸術を行き来しておもしろがる感性が、そこにあります。〉「STANDARD BOOKS 刊行に際して」平凡社

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〈(前略)何冊かお借りして読んでみたところ、わたしの知っている読書とは違う感じがしました。/小説の読後感とは違うのです。/乾いた涼しい風が吹いてくる読書なのです。〉

高野文子の『ドミトリーともきんす』のあとがきより。このまんがは2014年に中央公論新社から発行されました。

〈科学の本棚〉を前にした、お母さんの〈とも子〉と娘〈きん子〉。
本棚の背表紙を見て〈懐かしい名前だわ。〉と、とも子が言ったのは、〈朝永振一郎〉〈牧野富太郎〉〈中谷宇吉郎〉〈湯川秀樹〉の4人。

とも子は娘きん子に、語ります。
〈ううん。会ったことはないわ。お母さんよりずっと年上だもの。〉
〈10や20ではたりなくて、100に近いくらい上の人なのよ。〉
〈会ってみたかったな。ただ、とっても偉い人達だから、お母さんは、あがっちゃって何も言えないと思うけれど。〉
〈だけどもしもよ。彼らがまだ世に出る前の若者で、これまた不思議なことに、わたしたちのご近所さんだったとしたなら、〉
〈こんにちは、ごきげんいかが?って、声をかけてみたいわ。〉

朝永振一郎は「子どもたちに向けた言葉」として、こんな言葉を残しています。

〈ふしぎだと思うこと これが科学の芽です
よく観察してたしかめ そして考えること これが科学の茎です
そうして最後になぞがとける これが科学の花です〉

科学者がいかに科学の花を咲かせたか、彼らの視線のゆくえ、残した言葉を辿り、いま読み直すこと。
その手掛かり、案内人のような1冊です。

とも子ときん子がまかなう小さな山小屋のような下宿、ドミトリーともきんす。その2階には科学の勉強をする学生が住んでいます。トモナガ君、マキノ君、ナカヤ君、ユカワ君。
トモナガ君は鏡と物理学について考えたり、マキノ君は梅を描き、ナカヤ君は中庭で雪の観察をします。

〈さて、きん子さん。雪は 天からの手紙だということを 知っていましたか?〉
〈いいえ、知りませんでした。お手紙、読んでよんで。〉
〈ちょうど一通届きました。これを読んでみましょう。〉

ユカワ君はきん子とお豆のスナックを食べ、数について考えます。ポリポリたべるふたりの絵が可愛くて大好きです。
ユカワ君はこんな言葉も言っています。

〈科学とは/いっぺん遠いところへ行くことなのです。/遠いところへ行ってみると、ようわかることがありまして。〉

とも子はユカワ君に尋ねます。
〈科学が進めば、いつかケガや病気を恐れずにすむ日がくるでしょうか。〉
〈ともきんすに住むみなさんが、たくさんの計算をつめば 将来におこる物事を前もって知ることが、できるのではありませんか?〉

ユカワ君はとも子は「可能の世界」に住んでいると話します。
実現を待っている無数の事実から、どれが選ばれるか決定する「法則」はいまのところ見つかっていない。
どんなにたずねても「確率」としか言えないことで、とも子は不運のあきらめもつきます。

〈ひるがえせば、希望があると考えても、さしつかえないわけだもの。〉

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このブログの新しいカテゴリ「涼風本朝七十二候」は、1年かけて、季節を感じながら、〈涼しい風〉が吹いている本を読んでみようと思います。
いまは私は小説を積極的に読めないけれど、涼しい本なら、手に取れる気がします。

〈境界を越えてどこでも行き来するには、自由でやわらかい、風とおしのよいこころと「教養」が必要です。その基盤となるもの、それが「知のスタンダード」です。手探りで進むよりも、地図を手にしたり、導き手がいたりすることで、私たちは確信をもって一歩を踏み出すことができます。〉「STANDARD BOOKS 刊行に際して」平凡社

「科学の本棚」の前で、とも子は語りかけます。

〈「ドミトリーともきんす」はまもなく閉館ですが、ご安心ください。棚にはまだ、たくさんの本が並んでいます。〉



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by bookrium | 2017-02-06 00:16 | 涼風本朝七十二候 | Trackback | Comments(0)

夏至――『六月』

夏至……太陽が天球上で夏至点に達し、北半球の昼の長さが一年で一番長く、夜が一番短くなる日。
北回帰線上の観測者から見ると 夏至の日の太陽は、正午に天頂を通過する 。

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〈海の青が薄くなると、それだけ、空の青が濃くなってゆく。
 街に青のスーツが目立ってくる。それに従って、山野の青が消えてゆくのだ。
 六月――、移動する青の一族。その隊列を横切るために、私は旅に出なければならぬ。〉
『井上靖全詩集』より
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by bookrium | 2014-06-21 00:54 | 当世本二十四節気 | Trackback | Comments(0)
芒種……稲や麦など芒のある穀物の種蒔きの時期。蟷螂や蛍が現れ始め、梅の実が黄色くなり始めるころ。


〈私は昨日、或る人が自分の能力を精一杯花ひらかせた、その成果を、展開して見せている展覧会を見に行きました。私はその人が三、四年前、その仕事を始めたときのことを知っています。その人はただ一直線に自分の道に進んだのです。それは、はた目には、まるで狂気じみた自信のように見えました。この人の自信とあなたのとは、全く別種の自信です。いつも平常心をもって、深く潜行する、ゆるぎのない自信。これがあなたの自信です。あなたはそれを最初から持っていたように、私には思われます。〉

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〈私は固く信じているが、人の中には、駄目な人は一人もいないものである。人と人との相違は、その人が自分の好い芽をひらかせるような気でいるか、或いは摘み取って了うような気でいるか、その違いである。
 誰にでも、その人の持っている芽、と言うものがある。その芽を太陽のよく当たるところへ出して、ときどき水をやり、肥やしもやっているか、或いはそこら中へおっぽり出して、まるで構わないでいるかで、勝負は決まる。〉宇野千代『行動することが生きることである』より

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by bookrium | 2014-06-06 00:00 | 当世本二十四節気 | Trackback | Comments(0)

当世本二十四節気

カテゴリの〈当世本二十四節気〉の中は、内容がゆるく分かれています。

はじまり

2009年2月から2012年5月までは小説がメイン。あまり書かなかった年もあります。

2013年4月から2014年3月までは詩。

2014年4月からは短文。


いつもその時その時の思いつきで本を選んでいます。季節やその時の気持ちに、ゆるく沿っています。その頃亡くなった作家を取り上げた時もありました。
もっと知っていたら、取り上げる作品の幅があるだろうなと、いつも感じています。

書いた中で好きなのは、『遠いアメリカ』『夏の読書』『晩年』です。



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by BOOKRIUM | 2014-05-11 20:12 | 当世本二十四節気 | Trackback | Comments(0)
立夏……太陽の光がいよいよ強くなってきて、夏の気立ちが昇るころ。この日から立秋の前日までが夏。


〈私は誰に教わったわけでもない。兄も又、知っていたわけではない。私達は共に生きて行くのに助け合わねばならなかった。助け合うという気持さえなかったかも知れない。成長して離れて一人ずつの人間になる前に、兄は死んだ。〉

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〈男を愛し子を産んだ。子を産むことで、私は与えるだけの喜びを知らされた。それは私が創ったわけではない。子供が誕生と共に私に与えたものであった。
 愛した男を失った。それは私の中で失われ、失われたものをまじまじと見つめる地獄を知った。あらゆる宗教はやがて失われていく愛をおそれた人間の知恵が創ったのかも知れない。
 ゆるやかに崩壊していった家庭を営みながら、私は一冊の絵本を創った。一匹の猫が一匹のめす猫にめぐり逢い子を産みやがて死ぬというただそれだけの物語だった。
「一〇〇万回生きた猫」というただそれだけの物語が、私の絵本の中でめずらしくよく売れた絵本であったことは、人間がただそれだけのことを素朴にのぞんでいるという事なのかと思わされ、何より私がただそれだけのことを願っていることの表われだった様な気がする。〉「二つ違いの兄が居て」佐野洋子



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by bookrium | 2014-05-05 21:15 | 当世本二十四節気 | Trackback | Comments(0)
穀雨……春のあたたかい雨が降り、穀類の芽が伸びて来る頃。

〈《わたしは死んでしまったのね。神様、わたしは死んだのですね》と呟きました。〉
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〈その時はじめて、雨がやんでいることに気づきました。静寂がわたしたちの周りを包んでいたのです。その静けさは神秘に満ちた深い幸福感をもたらし、死そのものと形容したくなるような完璧な状態でわたしを包み込みました。〉
ガルシア・マルケス 井上義一訳『青い犬の目』より


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by bookrium | 2014-04-20 01:09 | 当世本二十四節気 | Trackback | Comments(0)

清明――『柿の種』

清明……桜や草木の花が咲き始め、万物に清朗な気が溢れて来る頃。 

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〈宇宙の秘密が知りたくなった、と思うと、いつのまにか自分の手は一塊の土くれをつかんでいた。そうして、ふたつの眼がじいっとそれを見つめていた。
 すると、土くれの分子の中から星雲が生まれ、その中から星と太陽とが生まれ、アミーバと三葉虫とアダムとイヴが生まれ、それからこの自分が生まれて来るのをまざまざと見た。
 ……そうして自分は科学者になった。
 しばらくすると、今度は、なんだか急に唄いたくなって来た。
 と思うと、知らぬ間に自分の咽喉(のど)から、ひとりでに大きな声が出て来た。
 その声が自分の耳にはいったと思うと、すぐに、自然に次の声が出て来た。
 声が声を呼び、句が句を誘うた。
 そうして、行く雲は軒ばに止まり、山と水とは音をひそめた。
 ……そうして自分は詩人になった。〉
寺田寅彦「短章 その一」


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by bookrium | 2014-04-05 00:03 | 当世本二十四節気 | Trackback | Comments(0)
春分(Vernal Equinox)……太陽が真東から昇って真西に沈み、昼と夜の長さがほぼ同じになる日。

〈たんぽぽ町に朝がやってきた。
 たんぽぽ町とは、東京のはじっこにある町で、そこにはちいさな川がながれていて、その川ぞいの道に、かわいいたんぽぽが、たくさんさきあふれていることから、みちゆく人や、そこでくらす人から、いつのまにか、たんぽぽ町とよばれるようになったところだ。〉

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〈おんなのこは、このたんぽぽ町がだいすきだった。ここで暮らしていると、自分をすきになれるからだ。そして、まいにち、しごとをして、ここに帰ってくると、ほっとするのだった。〉

〈おんなのこは、まいあさ、たんぽぽ町にかざられている「HOME」の文字をみながら、しごとにでかけていった。そして、夜になれば、「HOME」をいう文字を見ながら、家へかえってくる。
 たんぽぽ町には、今日もやさしい夜がやってくる。そして、まいにちやさしい朝がやってくる。〉
松浦弥太郎『くちぶえカタログ』より
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by bookrium | 2014-03-21 18:48 | 当世本二十四節気 | Trackback | Comments(0)

啓蟄――『晩年』

啓蟄……大地が暖かくなり、冬の間地中にいた虫(蟄)が穴を開いて(啓いて)動き出す日。一雨降るごとに気温があがってゆき、春に近づいていきます。春雷が一際大きくなりやすい時期です。

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〈僕は君を呼びいれ
 いままで何処にゐたかを聴いたが
 きみは微笑み足を出してみせた
 足はくろずんだ杭同様
 なまめかしい様子もなかった
 僕も足を引き摺り出して見せ
 もはや人の美をもたないことを白状した
 二人は互の足を見ながら抱擁も
 何もしないふくれっつらで
 あばらやから雨あしを眺めた〉
室生犀星『晩年』より




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by bookrium | 2014-03-06 00:40 | 当世本二十四節気 | Trackback | Comments(0)