〈bookrium=book+aquarium〉本の海を回遊するブックリウムの、本と陶芸のある生活です。


by bookrium
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タグ:室生犀星 ( 8 ) タグの人気記事

啓蟄――『晩年』

啓蟄……大地が暖かくなり、冬の間地中にいた虫(蟄)が穴を開いて(啓いて)動き出す日。一雨降るごとに気温があがってゆき、春に近づいていきます。春雷が一際大きくなりやすい時期です。

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〈僕は君を呼びいれ
 いままで何処にゐたかを聴いたが
 きみは微笑み足を出してみせた
 足はくろずんだ杭同様
 なまめかしい様子もなかった
 僕も足を引き摺り出して見せ
 もはや人の美をもたないことを白状した
 二人は互の足を見ながら抱擁も
 何もしないふくれっつらで
 あばらやから雨あしを眺めた〉
室生犀星『晩年』より




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by bookrium | 2014-03-06 00:40 | 当世本二十四節気 | Trackback | Comments(0)

ある日

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〈私は雨がすきである
 雨はいつも私を机のそばにつれてゆき
 喜ばしい落ちつきを与へ
 本を手にとらせる
 この世界に小さな座を与へてくれる〉室生犀星
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by bookrium | 2013-03-11 17:29 | 好きな本 | Trackback | Comments(0)

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〈わたしは微笑つてみた
 何気なくふいに
 その女もさうしてみせた
 そのあひだに何年も経つてしまつた〉
室生犀星
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by bookrium | 2013-02-01 00:00 | 北陸の作家 | Trackback | Comments(0)

けふといふ日

〈時計でも
 十二時を打つときに
 おしまひの鐘をよくきくと、
 とても 大きく打つ、
 けふのおわかれにね、
 けふがもう帰って来ないために、
 けふが地球の上にもうなくなり、
 ほかの無くなった日にまぎれ込んで
 なんでもない日になつて行くからだ、
 茫々何千里の歳月に連れこまれるのだ、
 けふといふ日、
 そんな日があつたか知らと、
 どんなにけふが華かな日であつても、
 人びとはさう言つてわすれて行く、
 けふの去るのを停めることが出来ない、
 けふ一日だけでも好く生きなければならない。〉


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by BOOKRIUM | 2011-01-06 00:00 | 北陸の作家 | Trackback | Comments(0)
 〈たまたま地上に
  ぼくは生まれた
  生きる人間として
  デッサンの中に閉じこもって
  日々が過ぎた
  夜々が過ぎた
  ぼくはああした遊びをみなやってみた
  愛された
  幸せだった
  ぼくはこうした言葉をみな話してみた
  身ぶりを入れ
  わけのわからぬ語を口にして
  それとも無遠慮な質問をして
  地獄にそっくりな地帯で
  ぼくは大地に生み殖やした
  沈黙にうち克つために
  真実のすべてを言いつくすために
  ぼくは涯てしない意識のうちに生きた
  ぼくは逃げた
  そしてぼくは老いた
  ぼくは死んで
  埋葬された〉
ギュスターヴ・ル・クレジオ『愛する大地』(豊崎光一訳)

この詩は昔中島義道の本の冒頭で引用されていて、印象に残ってた。でも覚え違いをしていて、〈愛された/幸せだった〉の後は〈ぼくは死んで/埋葬された〉と続くと思っていた。〈ぼくは逃げた/そしてぼくは老いた〉を忘れていた。
室生犀星の「第二の故郷」を読むと、この詩のことを思い出す。


 〈私が初めて上京したころ
  どの街区を歩いてゐても
  旅にゐるやうな気がして仕方なかつた
   (中略)
  
  五年十年と経つて行つた
  私はたうたう小さい家庭をもち
  妻をもち
  庭にいろいろなものを植ゑた
   (中略)
  故郷の土のしたしみ味はひが
  いつのまにか心にのり移つて来た
  散歩にでても
  したしみが湧いた
  そのうち父を失つた
  それから故郷の家が整理された
  東京がだんだん私をそのころから
  抱きしめてくれた
  麻布の奥をあるいても
  私はこれまでのやうな旅らしい気が失せた
  みな自分と一しよの市街だと
  一つ一つの商店や
  うら町の垣根の花までもが懐かしく感じた

  この都の年中行事にもなれた
  言葉にも
  人情にも
  よい友だちにも
  貧しさにも慣れた
  どこを歩いても嬉しくなつた
  みな自分の町のひとだと思ふと嬉しかつた
   (中略)

  自分がゐるとみな生きていた
  みなふとつた
  どれもこれも永い生活のかたみの光沢(つや)を
  おのがじしに輝き始めた
  庭のものは年年根をはつて行つた
  深い愛すべき根をはつて行つた〉




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by bookrium | 2010-02-23 00:00 | 北陸の作家 | Trackback | Comments(0)
〈さよなら、をんなのひとよ、
 私のおわかれのうたを
 さまざまな形でここにおくる。〉
「とらへられざるままに」抄

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〈あなたがたも 私も
 うしろを見たことがない
 うしろに音となつて
 つぶれた毎日のあることを
 毎日が死体となつて墜ちてゆくのを
 見ようとも知らうともしないのだ
 
 けれど先きの日がきらめいて
 何が起り何が私共を右左するか判らない
 また先きの日のおばしまに
 誰かが思案に暮れ 待ちわびてゐるかも判らぬ
 先きの日を訊ねて見よう
 何処かにあるはずの先きの日〉
「先きの日」抄


〈山のあなたに幸ひ住むと、
 むかしの詩人はうたつたけれど、
 山の向ふも山ばかりが聳え、
 果には波打つ海があるだけだ。
 なにごとも為しえなかつたごとく、
 為しえなかつたために、
 見極めがつくまで生きねばならない。
 街のむかふも街だらけ、
 果には山があるだけだ、
 幸福なんぞあるかないかも判らないが、
 生きて生き抜かなければならないことだけは確かだ。〉
「あさきよめ」抄

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「先きの日」は、〈けれど先きの日がきらめいて〉というのが好き。
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by bookrium | 2010-02-06 13:00 | 北陸の作家 | Trackback | Comments(0)

室生犀星と詩

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〈雪がふると子守唄がきこえる
 これは永い間のわたしのならはしだ。
 窓から戸口から
 空から
 子もりうたがきこえる。
 だがわたしは子もりうたを聞いたことがない
 母といふものを子供のときにしらないわたしに
 さういふ唄の記憶があらうとは思へない。
 だが不思議に
 雪のふる日は聴える
 どこできいたこともない唄がきこえる。〉
(子守唄)


写真は新潮文庫、福永武彦編『室生犀星詩集』。24冊の詩集の中から、年若い読者を想定して福永武彦が187編を選んでいるためか、この本に入っている詩はみな読みやすいです。けれどやさしい詩ではない。

生後間もなく、加賀藩の足軽組頭をつとめた父と女中の母から離され、犀川ほとりの雨宝院の住職の内縁の妻の子として届けられた照道こと犀星。9才の時に実父が死に、実母も行方不明になる。高等小学校を3年で中退し、13才で金沢地方裁判所の給仕として働き始め、そこで上役から俳句を学び詩作も始める。ほぼ独学ではじめた詩を生涯続け、〈からだぢゆうが悲しいのだ。〉と74才で亡くなる1週間前まで、遺作の「老いたるえびのうた」に書き残した。

〈ゆきふるといひしばかりの人しづか
〉という犀星の句が好きだけど、幾つの時に詠んだのか知らない。

気に入った詩はいろいろあって、〈私のゆく道は万人のこない道だけれど/自分によくにた宿命を負つた人の来る道だ〉という「まだ知らない友」もいいなと思う詩。

父や金沢という故郷を失い、東京での家庭が〈深い愛すべき根〉をはって〈私〉を抱きしめる「第二の故郷」。

他にもいいなと思うのは、「はる」「春から夏に感じること」「永遠にやつて来ない女性」「女人に対する言葉」「人」…〈日本のゆふぐれは柔らかい〉という「日本のゆふぐれ」「紙」「誰かをさがすために」「あさきよめ」「初めて「カラマゾフ兄弟」を読んだ晩のこと」などなど多数。

故郷のことを、〈うらぶれて異土の乞食(かたゐ)となるとても/帰るところにあるまじや〉とまで言っても、犀星の詩は金沢の時雨や山や川、ちいさな生き物へ目をやる。雪の詩も多かった。


〈その赤ん坊を見たまへ
 棄てられし赤ん坊を見たまへ
 赤ん坊の赤き肌を見たまへ
 遂に死なざりし赤ん坊を見たまへ
 遂に生き抜きし赤ん坊を見たまへ
 赤ん坊のまなこを見たまへ〉
(赤ん坊)



 
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by bookrium | 2009-02-12 16:29 | 北陸の作家 | Trackback | Comments(0)
c0095492_19525436.jpg「石川近代文学全集3 室生犀星」です。今まで詩しか読んでいなかったので、小説の犀星は新鮮。

「性に眼覚める頃」「或る少女の死まで」など有名な作品を読む。金沢の犀川大橋ほとり、犀星の育った雨宝院を思い出しながら。若い日々の屈託がいいです。

「後の日の童子」という作品が印象的。作家の元にたびたび訪れる童子。作家も妻も死んだ我が子とわかっていて歓迎する。生まれた赤ん坊に童子は近寄らない。日が暮れると童子はどこかへ帰ってゆく。足跡に這うのはヤスデ。童子はだんだん作家と妻の目にはかすんで見え、遠くなっていく…。

短い話ですがせつなくていいです。

犀星の詩を知ったのは高校生の時。女優の緒川たまきさんが「昨日いらつしつてください」という詩を紹介しているのを目にしました。図書館で借りてノートに書き写したのを覚えています。

その後は21位の時に、広坂の近代文学館前にあった頃のダックビルで、文庫本の犀星の詩集を手にしました。その本で「まだ知らない友」という詩を読みました。

広坂当時のダックビルはガラス貼りの四階からレンガの近代文学館や桜の緑を見下ろして、静かな空間でした。当時はブックカフェに馴染みがなかったので、飲み物をたのまなかったことをやや後悔。たくさんの本が静かに収まっていて、眺めていると本たちがいろんな世界につながっている気がしていました。
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by bookrium | 2007-01-30 19:52 | 北陸の作家 | Trackback | Comments(0)