〈bookrium=book+aquarium〉本の海を回遊するブックリウムの、本のある生活です。


by bookrium
カレンダー
S M T W T F S
1 2 3
4 5 6 7 8 9 10
11 12 13 14 15 16 17
18 19 20 21 22 23 24
25 26 27 28 29 30 31

2010年 07月 12日 ( 1 )

『海亀日記』宮内勝典

〈長沢哲夫の詩を読んでいるうちに、突然、思い出したことがある。〉
c0095492_1642832.jpg

二千年三月三〇日の作家の日記。
かつて、与論島を去って、図書館長をしている島尾敏雄を訪ねて、奄美大島に渡った。島の内陸部を延々と歩く宮内は、与論島の波打ち際から大きなシャコ貝を持ってきていた。白く風化した、見事なシャコ貝。空腹のつらさに重い貝をあきらめて、宮内は奄美の大樹の下に貝を埋める。いつか戻ってくるつもりで。


〈長沢哲夫の詩を読み返しているうちに、突然、その記憶が甦ってきた。あのシャコ貝は、いまも奄美大島のどこかに埋もれているにちがいない。〉



 〈海の上では何もかも燃えつきてしまう
  人はただ流され孤独の糸をひいているようにみえる
   (中略)
  そうなのだ まだまだあるなどとは思ってはいけない
  まだ誰もいないのだし
  これからだって誰がいるわけでもない
  糸は切れていて
  海の上では何もかも燃えつきてしまう〉



〈船が寄りつくことさえ困難な岩だらけの火山島で、いま長沢哲夫は飛び魚の刺し網漁に精を出しているはずだ。一方で、このような言葉が、かれの意識に浮かんでいる。ノート・パソコンのキーを叩いて、その言葉を電子空間に送りだしながら、ぼくは沈黙してきた畏友の息づかいを感じている。その孤島の火口のへりに立つと、煮えたぎる赤いマグマが肉眼でもはっきり見えるのだ。〉

c0095492_16424510.jpg


  〈やわらかい太陽のこめかみから
   世界のひもが湧き出てくる
     (中略)
   おろおろすることはない 世界はもぬけのからだ
   ふり返らなくてもいい 心は次々に水に溶けていってしまう
   出かけよう
   そして 旅が終わったら 美しい河のほとりで会おう〉

[PR]
by bookrium | 2010-07-12 17:14 | 好きな本 | Trackback | Comments(0)